oてゆか君達ココ店ですよo


「おい失格」

「何だそれは」
見るとあいつの皿の上には鮮やかな緑色の固形物が端の方にきっちりと陳列されている。
「・・・ピーマン嫌い」
伏し目がちに口を尖らせる殺人鬼。
お前幾つだ。

ぼくらは今、とある店で昼をしている。
というのも、たまたまバイトでまとまったお金を貰い、たまたま道行く殺人鬼と出くわしたもんだから、ホームレスしてるあいつに奢ってやろうという仏心が芽生え、近くにあったこの店に腰を落ち着かせたというわけだ。
ぱっと見ファミレスだと思ったのになぁ。
メニューには何故か「フルコース」の文字。
零崎は「何でも好きなの頼んでいい」というぼくの言葉を鵜呑んで一番高いソレを頼んだのだが、まぁそういうものは彩りも十分に配慮しているわけで。
赤、黄、緑―例えばピーマン等の野菜は必須なのであった。
そこで今に至る。

「おい。19にもなってピーマン嫌いって・・・
「嫌いなモンは嫌いなの!」
ぼくが言い終わる前に、物凄い勢いで逆切られた。
ピーマンの何処がそんなにいけないのだろうか。
「あの毒々しい色彩に禍々しい形容!
 噛んだときの何ともいえねえ不快な食感及び口内に散漫する激しい苦味!
 めっちゃ苦いし!ぜってー食えねえ!!」
手に持ったフォークの柄をガンガンとテーブルに叩きつけながら毒づく零崎。
酷い言われようだった。
ピーマンに同情。
しかし、ここまで「食えない」一点張りされると、無理やりにでも食べさせたくなるのが人類の本能というヤツなのだろう。
ってゆうか、
ぼくが体張って働いてやっともらえた大金でオーダーしたフルコースを残すという行為は何とも頂けないのであった。

「なぁなぁ零崎。少しくらい食えよ。ほら、あーんしてあげるから。あーん」
ぼくは皿の上に寸分の狂いもなく整列させられているピーマンをフォークで刺し、あいつの口元へ近づけた。
が、
一向に口を開こうとしない。
それどころか、どの角度から攻めようといやいやと首を振って拒否るばかりだ。
くそう。このぼくの折角のサービス棒に振りやがって。
 ミッション1「あーん作戦」失敗

こうなったら
「仕方ないな」
ぱく。
ぼくはさっきのピーマンを食べてあげることにした。
(零崎が「いーたん優しい!」みたいな感じに表情を明るくする)
と見せかけて、
そのままあいつの口と自分の口をくっつけた。
何が起こったのか判ってない様子の奴を尻目に、ぼくは無理矢理口を開かせ、ピーマンを流し込む。
まあ、俗にいう『口移し』というヤツだ。
そして、相手が飲み込んだのを確認し、
口を離した。

ガタンと
「なッ・・・な、なッ何すんだよいーたんッッ!!!」
立ち上がり、耳まで真っ赤になって怒る零崎。
かわいいなあ。
「何って・・・自分では食べれないようだったから食べさせてやったんじゃないか。」
感謝しろ。と、さも事もなにげに言ってみる。
「はァ?!だからってなあ、方法があるだろ方法が!!何ださっきの!わけ分かんねえよッ!!」
「でも別にいいだろ?結局食べれたんだし。結果オーライさ」
「んなわけあるかッ!俺頼んでねぇし!大体いーたんはもっと時と場合っつーんを考えて

と。
そこではっと口をつぐむ。
ぼくとしては、その”時と場合”を踏まえたうえでの犯行だったのだが。
可愛い可愛い殺人鬼は自分が置かれている”時と場合”というものに今更気づいたらしい。
一般客の視線は漏れなくぼくらに注がれていた。

学校サボリの女子高生も
和気あいあいと箸をすすめるアットホームな家族も
コーヒーだけで何時間も粘っていたご近所おばさんグループも
二人で1つのパフェをオーダーし突っついていたアベックも
今やみんなこっちを向いている
そりゃあね、
顔面刺青白髪の可愛い殺人鬼とそれこそ何処にでもいそうな平凡な欠陥製品がピーマン片手にいきなり叫びだしたとすれば。
これは注目せざるをえないだろう。

さっきまでの雑音が嘘のようにしんと静まり返った中、人間失格の顔だけがみるみると紅潮していった。
あは。りんごみたい。
とりあえず「零崎」と声でも掛けようと立ち上がったぼくをまるで人殺しかのような鋭い目つきで睨んできたそいつは
「もういいッ!俺帰るかんなッ!いーたんなんか知らねえッ!!」
りんごさながらの顔でそう叫び残し、玄関口へとダッシュしてしまった。
チッ。逃げたか。
とりあえず笑顔で代金だけは支払い、ぼくはあいつのあとを追いかけた。
店中の視線を横目に受け流し、走り出す。

うーむ。
本当はピーマンを流し込むついでにあいつの食べたフルコースの味もじっくりと堪能したのだが、そのことについては触れないでおこう。
あんな状態では本気で殺られかねない。
それに
逃げ出す直前にあいつが
「ファーストキスはピーマンの味かよ」
と、ぼそりと零したのを、ぼくは聞き逃さなかった。

「ごちそうさまでした」
2つ以上の意味でそうつぶやき、ぼくは店をあとにする。
 


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